VERTERE(バテレ)は、東京の奥多摩町を拠点とするクラフトビール醸造所。ムーンスターとVERTEREをつないでくださったのは、福岡のクラフトビール専門の酒屋兼角打ち「BEERSONIC」店主の深堀セイゴさんでした。
(https://inuse.jp/me_and_moonstar/no10/)
お話を伺った鈴木和佳さんは福岡出身。そして10年来のムーンスター愛用者。そんな鈴木さんが「BEERSONIC」を訪れた際に、ムーンスターのメンバーが「BEERSONIC」によく来ることや、VERTEREを愛飲しているという話を深堀さんから聞かれ、その後お会いしたのがご縁の始まりでした。そこからムーンスター創業150周年の記念ビールをつくっていただいたり、SHOES LIKE POTTERYでのコラボレーションが実現。かなりのムーンスター好きでもある鈴木さんに、VERTEREの仕事やものづくりのこと、ムーンスターのことなどをお聞きしました。
「まさかビールの仕事をするとは思ってもいなかったです」
私は元々、福岡の住宅設備メーカーで現VERTERE代表である夫と一緒に働いていました。インテリアも好きだったし、住宅関係の仕事に就きたいと思っていたので、すごく充実していました。ビールとはまったく無縁で、むしろビールは好きじゃなくて、ワインとか日本酒・焼酎とかのほうが好きでした。夫と知り合って、そこからクラフトビールを飲むようになって、初めてビールっておいしいなっていうのを知りました。結婚することになって、夫が東京でビール屋を始めると言うので一緒に行くことになったんです。
「楽しいと思っていないことのほうが少ないです」
私が担当しているのは、総務、経理、問い合わせ対応やオンラインショップの企画、パッケージやグッズの企画、出荷などです。大学生のときにアパレルで働き始めて、卒業後そのまま入社して、生地やインテリアにも興味を持ち始めました。それでたまたま住宅メーカーに転職することになって、建材とかマテリアルとかを勉強するようになっていきました。私自身は直接はつくっていないけど、ものづくりに関わるのは元々好きなのかもしれないですね。今の仕事が楽しいと思えるのは、少人数で始めたのもあって、何か指示されて仕事をしているという感覚があまりないからかも。みんなそれぞれ自分が何をするべきかの意味が分かっていて、やらされてる感覚がなく、自分のやっていることが直接販売に響いてくるっていうのもあって、一緒につくり上げている感覚が持てるのが大きいかもしれません。私はビールづくりのことは全然詳しくないんですが、「次はこうしてみよう」とか「こういう販売の仕方はどうかな」とか、自由にアイデア出しができる環境だと感じています。もちろんやりたいことに根拠は必要なんですが。
「誰とどこでどうやって飲むか」
奥多摩は、代表も醸造長も小さい頃にキャンプとかでしか来たことがない場所だったらしいんですけど、来てみてビールを飲んだらすごいおいしくて、この経験をお客さんにもしてもらえるんじゃないかっていうことで、奥多摩を拠点にすることになったんです。そんな原点もあってVERTEREのTAPROOMは「誰とどこでどうやって飲むか」をテーマとしているんですが、たぶんそれは外でもお店でも家でもなんですよね。大切なのは「今居心地がいいなって感じること」なんだと思います。人と一緒に飲むということだけではなく、はっきりとした定義があるのでもなく、それぞれが気持ちのいい場所で飲むのがいい、というか。私も家で一人で飲む時間も好きだったりしますし(笑)。
「こだわりはすごく大事。でも固執しない」
クラフトビールって、同じレシピでも常に同じ味ができるとも限らないんです。麦もホップも全部自然なものなので、全く同じ味にはならないから、前回のバッチのほうが好きだったっていう人もいれば、今回のバッチが好きだったという人もいるけれど、理想とする味を追求しながら醸造チームが納得するまでブラッシュアップし続けるというスタンスなんです。それでも一貫してVERTEREっぽいっていうのはあるんじゃないかなと思います。だから、バッチごとの違いにもワクワクしてもらいたいと思っています。変化を続ける中で、飲む人の解釈でビールを楽しんでもらえると嬉しいです。
「その人がどう感じるのかを大切にしたい」
VERTEREには「飲んだ人の価値観を変える」という考え方があるんですが、その人がどう感じるのかを大切にしたいと思っています。ビールとの出会いの中で、味の感覚だけじゃなくて、いろんな感覚というか、自分にはなかった感覚を楽しんでもらえたらいいなと思います。だから先入観を持たれないように、商品名もラベルの写真もなるべく情報を減らしていて。いかにも味が分かりやすい名前を付けないように工夫したり、ラベルの写真も商品とは直接関係がないものにしたりしています。ちなみにラベルの写真は、スタッフが旅行先などで携帯で撮った写真なんですが、ちょっとブレてたりするのもいいねってなったりしながら選んでいます。
「ムーンスターは生活の一部」
奥多摩町で暮らし始めて今年で10年目になるんですが、10年前に福岡にいたときはスニーカーで通勤する習慣がなく、革靴やバレエシューズをよく履いていました。その頃、セレクトショップだったか雑誌だったか思い出せないのですが、ムーンスターを何かで知って、LOW BASKETのNATURALを購入したのが初めての出会いです。アッパーの生成とソールのブルーのコントラストがかわいいのと、履いた瞬間、見た目によらずキツくないことに心躍ったのを覚えています。その頃から子育て中心の生活になり、スニーカー以外履かなくなったこともあって、ムーンスターとの長いお付き合いが始まりました(笑)。子どもも夫も、新しい靴を買うときはまずムーンスターのサイトから探しています。ムーンスターの靴は家族みんなでほぼ毎日履いていますし、我が家の生活の一部です。
「名脇役のようで主役」
ムーンスターの好きなところは、履き始めに違和感がなく、最初から馴染んでくれるところです。幅広な足でもすっきり見せてくれるところも嬉しいですね。私は新しい服を買うときに、どの靴に合うかな、GYM CLASSICと合わせたいな、とか、靴を考えて服を買うことが多いのですが、外側にマークがなかったり、あってもラバーと一体化していて目立たなかったりするので、どんなファッションにも馴染むところが、一見名脇役のようで実は主役だなと思います。ソールが柔らかいのにしっかりしていて長持ちするし、自分の足に合っていることを履いていて実感します。
「ムーンスターの皆さんは、チームに見えました」
初めてムーンスターの方たちに会ったときに、チームだなって感じがして、ちょっとVERTEREと似てるなって思ったのを覚えています。社外の私みたいなのでも本当にすっごい温かく受け入れてくださって、初対面なのにこんなに楽しい場があっていいのかなっていうぐらい楽しくて(笑)。チームに見えた理由はいろいろあると思うんですが、いちばんは、自分たちがつくっている商品のことが本当に好きなんだなっていうことが、ムーンスターの皆さんから伝わってきたからだと思います。自分たちの靴を誇りに思っているし、大好きというところがある。その辺がいいなと思いました。VERTEREもみんなVERTEREのビールが大好きなんです。ムーンスターとVERTEREとでは歴史の長さは全然違うけど、新しいことにどんどんチャレンジするっていうところとか、もっと面白いことをやろうとか、自分たちがやっていて楽しいことをやろうとか、こういうものをつくりたいとか、そういうものづくりに対しての気持ちが似てるのかなと思います。
「たまたまの縁を大切にしたい」
VERTEREを知ったきっかけっていうのも、人によって本当に様々なんです。たまたま山登りで奥多摩に来られて、TAPROOMでVERTEREのビールを知って、そこからクラフトビールにハマるっていう方もいらっしゃれば、都内で飲んでくださった方がわざわざ奥多摩まで足を運ばれたり。自然といろんな方が来られる場になっていて、それがすごく面白いです。肩肘張ってここで何とか文化をつくってやるぞみたいなことよりかは、たまたま縁があって来てみたらいいねぐらいの感じがむしろいいのかなって思っています。ムーンスターとの出会いも、今思えば本当にご縁でしたし。
鈴木さんには、心の片隅に留めている人生訓があるといいます。それは、中国古代の崔銑(さいせん)が残した言葉『六然(りくぜん)』。その中でも特に大切にしていることは「人と接するときに相手に心地いいと思ってもらいたいと思うことはもちろん大切なことだけれど、自分自身もそれが大切で、お互いが心地いいと思うためには雰囲気が和やかであること」。そして「どんな変化が起きてもそのときにはその流れに乗って、その変化に自分も溶け込むじゃないけど、自分の心を落ち着かせておくこと」だと教えてくれました。VERTEREとVERTEREのビールを飲む人。どちらかだけが心地いいのではなく、お互いが心地いいと思える関係性や雰囲気をつくること。変化を恐れず、楽しみながらビールをアップデートし続けること。VERTEREのものづくりには、いいものをつくり続ける、持続可能なものづくりのヒントがありました。