つながる
私とムーンスター

D&DEPARTMENT PROJECT(ディアンドデパートメントプロジェクト)は、2000年にデザイナーのナガオカケンメイさんによって創設された「ロングライフデザイン」をテーマとするストアスタイルの活動体。ムーンスターは、同プロジェクトのブランド「60VISION」でご一緒したり、店舗で商品をお取り扱いいただいたりと、長年にわたってお付き合いをさせていただいています。また、2022年にオープンしたMOONSTAR JIYUGAOKAからD&DEPARTMENT TOKYOまでは、徒歩20分の距離ということもあり、店舗スタッフの方々をお招きして靴の講習会を行わせていただくなど、新しいつながりも生まれています。今回取材をさせていただいたのは、その講習会のきっかけをつくってくださった方でもある、店長の平田さん。ご自身が経験された、ものとの向き合い方の変化や、D&DEPARTMENT PROJECTが大切にしている考え方など、私たちにとってたくさんの気付きを得る時間となりました。

「自分が尊敬する人と一緒に働きたい」

D&DEPARTMENTに入社したのは2年くらい前なんですが、その前はウェディングプランナーをしていました。転職を考えたときに、働くうえで一番大事にしたいところは、自分が尊敬する人と一緒に働くことだと思ったんです。それで、これまで自分が影響を受けた人って誰だったっけ?と考えてみたときに、学生時代の就活中にナガオカの本をたまたま読んで衝撃を受けたことを思い出して。たしかD&DEPARTMENTっていうお店をしていたな…と。面接では言わなかったですが、実は一回も本店の東京店には来たことはなくて(笑)、本だけで。でも、とにかくナガオカがつくったお店で、そこで働かれている人と一緒に働きたいと思って入社しました。

「つくらないでつくる」

私が読んだのは『もうひとつのデザイン』という本だったんですが、「つくらないでつくる」という考え方が衝撃的でした。最初は、えっ?どうやって?って思いました。でも読み進めていく中で、新しくつくるよりも今あるものをどう見せていくのかだったり、すでにあるいいデザインのものを買い取ってきて見せ方を変えてあげたりとか、考え方や表現方法にそれまでの自分の価値観がひっくり返されたというか。あと、そのときは就活中で、いろんな企業がつくっているものに触れる機会があって、自分はどういうものに携わりたいかを考えていたタイミングだったということも、影響を受けた要因だったんだろうと思います。( 『もうひとつのデザイン』 https://www.d-department.com/item/2018000100029.html

「ものを買うときに一回立ち止まるようになりました」

ものに対しては、正直ここで働くようになってからちゃんと目を向けるようになりました。それまでは本当に何も知らなくて…。この名作椅子Yチェアとかも知らなかったんです。以前は消費的な考え方というか、とりあえずこれを買うとか、安いから買うとか、すぐ買い替えていくという考え方だったんですが、D&DEPARTMENTのロングライフデザインについて理解していく中で、これって本当に自分が愛を持って、長く使い続けられるの?とか、背景をちゃんと知ってから買うようになりました。

「機能性よりも、それが生まれた背景で買ったプラマグ」

2021年に「Long Life Plastic Project」という、みんなでプラスチックを一生ものとして使おうというプロジェクトが始まり、プラスチックメーカーさんとオリジナルでマグカップ(通称プラマグ)をつくりました。元々はナガオカのプラスチックの経年変化が好きだというところから始まったのですが、このプラマグ、約5,000円するんです。衝撃でした。だって、素材だけを見れば、100円ショップで販売されているものとまったく同じ。プラスチックに5,000円を払うという経験がこれまでになく、ナガオカと同じ熱量を持って自分の言葉で伝えられるのか、不安でした。でもいろいろなプラスチックメーカーさんに来ていただいて、勉強会やトークイベントがあって、メーカーの方のお話や、ナガオカのプラスチックに対する想いなどを聞いたときに、こういうふうに考えたことなかったな、とか、自分もこれに参加してみたいなって思ったんです。

「ふつうのスニーカー」

元々スニーカーを履くタイプではなく、フォーマルな感じとかデザイン性に富んだ靴を選ぶ傾向があったので、恥ずかしながら入社するまではムーンスターについて知りませんでした…。履き始めたきっかけは、本当に良いと思ったものしか持たないタイプの人が多いスタッフがほぼ全員履いていたからです。だから、履く前からムーンスターの靴は良いものなんだ!と、漠然と感じていました(笑)。今日も履いているGYM CLASSICは、トレーニングシューズを再現したモデルということもあって、長時間履いていても疲れないという点と、ヴァルカナイズ製法で両サイドのラバーが割れにくい点が普段から立ち仕事の私にとってとても重宝しています。丈夫な仕様にするために施されている内側の生地の伸び止めのテープも、今は簡略化されがちなところまで再現していて、好きなポイントです。どんなシーンでも合わせやすいのは、ベーシックで、いい意味でふつうのスニーカーだからなんだと思います。

「ムーンスターの靴について熱く語ってしまうのは、構造の話です」

店舗に来られる方は、ムーンスターの名前は知っていたり、見たことがあるという方がほとんどで、一回履いてみたかったという方も多いです。説明をするときは、GYM CLASSICが半分になっているものを見ていただきながら、靴の中身の構造を熱く語ってしまいます。こう折り曲げてもしなやかに曲がるんですよ、みたいなところとか、ヴァルカナイズ製法のこととか、調合から自社でゴムをつくっていることもマストで話すところです。だからもう、本当にプロフェッショナルなんです!みたいな感じで話していると思います(笑)。

「ものと向き合って、いいと思ったものを買ってもらいたい」

ものが本当によく見える位置に置いてあげたいと思うので、レイアウトには時間をかけています。「この置き方はちょっとこのものがかわいそうだよね」とスタッフで話し合ったり。あと、家具屋さんだと大体テーブルと椅子がセットになっていると思うんです。でもD&DEPARTMENTでは、できるだけセット売りにならないように、レイアウトを組んでいます。一個一個のものが、ちゃんと見えるようにするためです。日用品に関してもテーブルウェアをセットで見せるのではなく、同じジャンルのものがバーっと並んでいるだけ。お客さんが、ものをちゃんと見て買えるようにしています。あと、これは創業当初のナガオカの考えなんですが、雰囲気にのまれて買わないように、音楽はかけないという考え方もありました。

「たぶんずっと使っていくもの」

実は、D&DEPARTMENTで働き始める前は、ずっと使っているなと思い浮かぶものってなかったんです。だから本当にゼロベースから身の回りのものを見直した感じでした。それで初めて自分で買った家具が、このニーチェアでした。使い心地はもちろんですが、ニーチェアが生まれた背景や、メーカーさんの想いなどがすごく好きで、この椅子はたぶん、この先ずっと使っていくんだろうなって思います。ニーチェアをお祖父様から受け継いで使っているというスタッフもいるくらいなので、きっと長く使っていけるんだろうと思います。うちで販売しているものは買い取りができるので、お客さんには、「捨てるんじゃなくて持ってきてください」とお伝えしています。そういえば、20代くらいのときに家具を買いに来てくださった方が、10年後にお子様を連れていらっしゃったということもありました。そのときは、D&DEPARTMENTを通して、ものだけではなく、ものとの向き合い方も引き継がれている方がいるんだなと思って、嬉しくなりました。

「必然的にいいことになっていた。みたいなのが、いいんだと思います」

私がD&DEPARTMENT PROJECTの活動ですごい好きだなと思うのは「環境にいいことをしよう」から始まったりしないところです。そうではなくて、「必然的にいいことになっていた」みたいな。たとえばプラマグも、SDGsっていう言葉と結び付けて「あ、そういうことだよね」ってなってもいいんですが、そもそもはそこじゃなくて、ナガオカがプラスチックが好きで、もっとその価値を上げようっていうことで製品が生まれて、結果的にゴミが出ないから環境にもいいよねってなったりとか。長く売られ続けているものを仕入れて販売したり、いいデザインのものを買い取って販売したりすることは、今の時代に合ってるよねって見られるんですが、23年前からやっていることは変わらないんです。

平田さんは雑談の中で「今もうすでに溢れているすばらしいものを良く見せるサポート役に回りたいんです。」と仰いました。そして「商品のここがすごいんですよ!みたいな熱量を伝えてもらったり、メーカーの方のお人柄だったりに触れると、私たちのような小売も熱を持ってお伝えできるんです。もちろんいい商品であることには変わりはないんですが、それを取り巻く環境も一緒に伝えられるといいんじゃないかなって思います。」と付け加えられました。その商品は、誰が、どこで、どのような目的でつくったのか。つくった人は、どういったところを見てほしいのか。それを購入し、使い続けた先には何があるのか。メーカーからものと熱量を受け取り、熱を持って伝え続けることで、生活者が本当にいいと思ったものを買い、長く使い、引き継いでいく循環が少しずつできていく。23年間、「もののまわり」で様々な活動をされてきたD&DEPARTMENT PROJECTがつくってきたのは、そういうものなのではないかと、少し理解できた気がしました。