つながる
私とムーンスター

今回お話を伺ったのは、福岡を拠点とする株式会社ハイタイドで商品企画及び直営店のディレクションをご担当されている永田悠宇さん。ハイタイドは、機能性やデザイン性にこだわりながらも、枠に囚われない自由な発想で他にはない商品を次々と生み出している文具・雑貨メーカーです。永田さんは、2019年にハイタイド、太宰府天満宮、ムーンスターの三者でコラボしご朱印帳ケースを製作した際、商品企画の立場でプロジェクトを牽引されました。その発想の根底には、ムーンスターとも親和性の高い、ある考えがありました。

「はじめは、文房具や雑貨を扱っているメーカーだということも知りませんでした。」

今から10年以上前。インテリアショップで働いていた時に店でハイタイドの商品を扱っていたことで、その存在を知りました。最初は全国的に展開している会社が福岡にもあるんだな、という程度の認識だったのですが、創業者である芝崎が来店したことがあり、それをきっかけとして本格的に興味を持ちはじめたんです。会社で使う家具を直々に買いに来てくれていたんですが、立場に縛られない”明らかにサーファー”な見た目からもフランクなやりとりからも伝わる、自分たちのやりたいことを自由にやっていそうな印象が魅力的でした。それでインテリアショップ退職時に、ハイタイドに入社希望の相談をしたんです。でも実は当時インテリアショップで扱っていたハイタイドの商品はダストボックスだったので、てっきりインテリア系の会社さんだと思っていて(笑)。 何をしている会社かというよりもその雰囲気に惹かれて、文房具や雑貨に関しては未経験ながら入社しました。

「マーケティングはうちには必要ないな、と。」

文房具というカテゴリーは用途がはっきりしていて、商品開発においても抑えるべきポイントが明確です。しかし雑貨は幅も広く、ある意味自由なカテゴリーですので、様々な発想から商品が生まれます。分かりやすい例で言うと、和菓子なども企画して販売しているのですが、他の会社だったら「なんで文房具メーカーが和菓子?」って上から止められていたかもしれません。会社の姿勢として、機能性やデザイン性等の実用的な部分を無視しないというのが確実にあって、その中で最大限新しいことは何か、いかにプラスの価値を上乗せできるかを追求する。そこがブレなければ特に制限やルールは無いので、作るものが和菓子でも問題ないんです。だから今のハイタイドにはマーケティングの部署がありません。自分たちがやりたいことをやるという想いが強い会社だからこそ、売るためのテクニック以上に「何を作りたいか、何を届けたいか」に時間と思考を費やしたほうが良いという考えからです。営業の部署からのフィードバックはありますし、みんなそれぞれリサーチ等は行っていますが、専門的な部署やそのための会議等はないですね。

「本当の豊かさは、バランスから生まれると思うんです。」

僕たちが自由に挑戦し続けている根底にあるのは、会社のビジョンです。ハイタイドという言葉は”満ち潮”という意味で「いつも精神的に満たされていたい」という想いから来ています。使い手、作り手がそれぞれ精神的に満たされるような、本当の豊かさを感じられるようなモノを提供することをビジョンとして掲げているんです。本当の豊かさをどのように表現し、そのために何が必要かを社員全員がいつも考えています。うちはスケジュール帳から始まった会社なんですけど、「スケジュール管理ってパソコンやスマホでできるよね」と何年も前から言われ続けながらも需要は無くなっていないんです。むしろ手帳ならではの楽しみ方を大切にする人も増えてきているんですよね。本当の豊かさって、”デジタルなどのテクノロジーな部分”と”アナログでリアルな体験の部分”と、いかにバランスよく付き合えるかだと思うんです。そういった意味ではうちは文房具から始まった会社だからこそ、数値化できない体験、いわゆる使ってこそ感じる情緒を通して、使い手にとって満たされるモノを提供できるんじゃないかと考えています。

「ほかにはない新鮮さが見出せれば、どんどんコラボしていきたい。」

うちはコラボ企画も多いんですが、それは自社だけではできない自分たちがやりたいことを実現するためと、他にはない新鮮さを使い手に届けるためです。そういう姿勢に評価を頂き、他社さんからお声がけいただくことが多いですね。だからこそ、「その会社さんとうちであればどんな新しいことができるだろう」というのをまず考えるようにしています。新しいことや面白いことは、何かがぶつかり合ったり摩擦が起きたりした結果、それぞれの個性が混ざり合うことで生まれていくんだと思うんですよね。太宰府天満宮さん、ムーンスターさんと協力して三者で作ったご朱印帳ケースも、神社、文房具メーカー、靴メーカーといったまったく異なる分野が混ざり合って出来たものです。

「新しいことに挑戦する個人を尊重している姿勢にシンパシー。」

ムーンスターさんとは、ご朱印帳ケース以前にカードケースの製作でもコラボしています。コラボのお話を持ち掛けたきっかけは、ムーンスターさんが靴以外のプロダクトとして開発していたカードケースの試作品を見せていただいたことでした。靴を作っている企業さんが、独自技術を生かしてまったく別のモノを作り出そうとしているというのが個人的にもすごく新鮮でしたし、大企業なのに有志のチャレンジを否定していないというところから受けた、個人を尊重されているという印象に勝手ながらシンパシーも感じて、カードケースの商品化をご相談しました。生地の性質等を生かしてムーンスターさんがしっかり設計されていたこともあって、初回はほぼ試作品のままの形で販売していましたね。その後はうちが福岡空港に出店することになったタイミングで、型や仕様、色等を変えてアップデートしたものを作りました。

「うちだけじゃ作れなかったモノが形になりました。」

そのカードケースに興味を持ってくださったのが、太宰府天満宮の神職さんでした。ちょうどうちが博多駅でポップアップショップを開いていた時にパターンや生地を気に入ってくださって、ご朱印帳ケースにアレンジできないかと相談を受けたんです。ムーンスターさんと一緒に太宰府天満宮に何度か足を運んで、いろいろとご意見をお聞きしながら製作を進めていきました。カードケースとの大きな違いとしては生地の裏表を逆にしているところですね。カードケースは使っていただく度につく汚れやエイジングも感じていただきたくて、耐久性を持たせるためにコーティング面を表にしていました。一方でご朱印帳ケースは柔らかい雰囲気を出したく、生地本来の肌触りを優先してコーディング面をあえて裏側にしたんです。色はムーンスターさんの作られている生地の中で太宰府天満宮さんのイメージに合わせたものをベースに、神職さんや巫女さんに選んでもらいました。結果、太宰府天満宮さんの象徴でもある梅をイメージさせるピンクに、幅広い層の方が普段使いしやすいようシンプルなベージュとブラックで展開をしています。当然ですけど神職さんや巫女さんはモノづくりを専門でされている方々ではないので企画がカタチになったことをより新鮮に感じてくださり、大きくロゴが載った完成品をお持ちするとすごく喜んでいただけました。みんなが知っている由緒ある太宰府天満宮さんとのコラボなんて、おそらくうちだけではできなかったと思います。三者で一緒に作り上げていくのはとてもやりがいがありましたし、快くご協力いただいたムーンスターさんにも感謝しています。

「福岡は混ざり合いが起こりやすい場所なんじゃないかと思うんです。」

以前はブランド名の元で商品を全国や世界に売り出していくことが主で、会社名は“くろこ”のような存在だったんです。しかし「ハイタイドという存在をもっとアピールしていかなければいけないよね」という声が社内で上がり、2017 年に福岡本社の 1 階を改装して実店舗「ハイタイドストア」をオープンしました。それをきっかけとして福岡空港への出店や博多駅でのポップアップショップなど、お話を頂くことが増えてきて。そうなると僕らも「福岡で何ができるだろう」と地元を意識するようになっていきました。すると、福岡は良い意味でフラットな土地柄だと気が付いたんです。業種間の壁だけではなく、会社同士の大きさや役職の差にも寛容ですし、おそらく混ざり合うのにちょうど良い規模感の町なんだと思います。属している場所によってできることって違うと思うので、それぞれがそれを生かし繋がっていくことで、新しいモノが生まれていくんじゃないかなと。だからこそ、うちはインディペンデントな方たちが企画するイベントに参加させていただくことも多いです。規模や業種などで線引きされることが多いなか、福岡ではそういった区別なく声をかけていただくので、積極的に参加しています。ムーンスターさんともそういったイベントでご一緒する機会が多く、個人や企業等の区別なく向き合う姿勢に親和性を感じています。

実用性を核とし、使い手にとっても作り手にとっても「精神的に満たされるモノ」を届けるハイタイド。創業者から伝わってきた社風やプロダクト作りに対する想いに共感し、未経験ながらも臆することなく飛び込んだ永田さんは、作り手としてそれを実現しようと日々新しい場所へと進み続けています。文房具というツールから始まった「使われてこそ感じる価値」や「様々なモノと混ざり合いながら新しいモノを生み出し続けたいという意欲」は、ムーンスターの考えとも繋がっています。それは、明治6年の創業時から脈々と受け継がれ極められ続けている技術を生かした「使われること」を意識したモノづくりと、靴に囚われない新しい発想です。ハイタイドがこれからも型にはまらない挑戦を続けていくのと同じように。ムーンスターも、様々な業種の壁を越え時に混ざり合いながら、新たなモノを生み出していきます。