つながる
私とムーンスター

「たまにしか使わないものよりも、日々、毎日でも使うものを扱うお店をやりたい」と思ってお店を始められたという宮原さん。10数年勤められていた雑貨店から独立され、2019年6月に東京都三鷹市に食器や生活道具、インテリア雑貨などを集めたお店“maika”をオープン。2022年5月に国立駅にほど近い場所に移転し、現在は奥様がつくる焼き菓子とコーヒーがいただけるスペースを併設したお店を営まれています。“maika”という店名は、“毎日”という漢字の “日”を“か”と読んで付けられたとのこと。毎日の生活の中にあったら、ちょっといいなと想像できるものが並んだ店内で、手づくりの焼き菓子とコーヒーをいただきながら宮原さんとお話しているうちに、雑貨好きな友人の家に遊びに来ているような感覚になっていく。“maika”はそんなお店です。

「気に入ったものを、そばに置きたい」

洋服は学生の頃から好きだったのですが、着るものだけではなく、住む環境に置くものも自分が気に入ったものを置きたいなっていうのは何となく思ってはいたんです。でもそこまで詳しくもなかったし、雑貨店で働き始めたきっかけもそんなに大きな志を持っていたわけではなくて、働く中でデザインがいいものや、古い食器や、北欧のものとかがいいなって思うようになって雑貨にハマっていった感じです。当時はデザインされたステーショナリーとかが流行り始めていた頃で、深澤直人さんのプラスマイナスゼロとか、生活の中で普段使うものでもちょっと小洒落ているというか、そういうものがいいなと思い始めて、どっちかっていうとデザインのほうから雑貨に入ったような感じかもしれないです。

「優しい時間に出会えると、人にも優しくなれる」

お店を始めるにあたって、自分が本当に何をやりたいのかと考えたときに出てきたコンセプトが、“ふだんの何気ない風景 お気に入りが増えるたび 優しい時間に出会えた”でした。“優しい時間”って、好きなものを使っているときの自分の時間もそうなんですが、自分自身が好きになれるというか、ナチュラルになれる時間というか。たとえば自分の好きな器具を使ってコーヒーを淹れたり、自分が好きなお菓子を好きなお皿で食べたりする時間。そんな時間を大切にする暮らしがぼくの提案したい暮らしなんだと思います。日々いろいろある中で、優しい時間に出会って自分の気持ちが落ち着くことで、周りの人に対しても優しい気持ちになれると思うんです。

「食卓を囲んで談笑している姿」

“優しい時間”のイメージって、自分一人で好きなものと過ごす時間はもちろんなんですが、人を家に招いて、自分が好きなものを使ってもらいながら、みんなが食卓を囲んで談笑している姿。自分がそこに入ってもいいけど、その光景を俯瞰で見ている感じも好きというか。その空気を見ているのがなんかいいなぁみたいな(笑)。お客様が「この前買ったのすごく良かったよ」って言ってくれたときに、買っていただいたものを使っているところを想像したり、その方の暮らしの役に立てたんだなと思えるときに自分の仕事の意味を感じます。

「自分で使ってみていいものを、責任を持って紹介したい」

自分自身も使って楽しみたいし、その楽しさをちゃんとリアルに伝えられるのが個人でお店をやっている面白みだと思います。企業に勤めていると自分の考え方だけではやっていけないところもあって、それはそれで楽しいんですけど、自分の責任で、責任を持って紹介するっていうのが性に合っているのかもしれません。自分でお金を出して自分で仕入れている中で、何となく売るのが嫌なんですね。たとえば150gのコーヒー豆を入れる缶があったとして、150gの豆を買ってきて入れようと思ったら、実はぴったり入らないみたいなこともあります。でも、最初の1杯分のコーヒー豆を使ったらぴったり入る。それって使ってみないと分からないんですよね。だから説明書に書いてあることを鵜呑みにせずに、本当に入るの?って思って使ってみたりします。お客様が知りたいことって案外そういうことなのかもしれないし、そこから信頼が生まれていくと、ものを選ぶ側としても嬉しいんです。ムーンスターをお取り扱いしたいと思ったときも、まずは使ってみようと思って、ぼくと妻で一足ずつ選んだのがALWEATHERとLITE BALLETで、使ってみてお取り扱いを決めました。

「ムーンスターには、誇りみたいなものを感じました」

まだ自分のお店を始める前のことですが、機会があってムーンスターのポップアップに伺うことがありました。そこで歴史や製造工程などの見せ方がかっこいいと思ったんです。シンプルだけど、内に秘める想いみたいなのを感じたというか、自分たちで自分たちのものをすごくいいと思っているんだなぁっていうのが伝わってきて。工場で実際に使っているものをそのまま見せていたりとか。嘘がなかったんです。うまく言えないですが、誇りみたいなものを感じました。

「Made in FinlandとMade in Kurume」

フィンランドに行ったときに現地の人にお話を伺っている中で、フィンランドの人たちがMade in Finlandの食器に対してすごく思い入れがあることを感じました。すごく誇りを持っているんだなと。アラビア社のものだと今ではアジアでしかつくっていないので、Made in Finlandのものはヴィンテージしかないんです。アジアでつくるっていうのが悪いわけではまったくないんですが、そのブランド発祥の地でつくられたものに誇りを持つっていいなと思います。ムーンスターもMade in Kurumeっていうのを大事にしているところがかっこいいと感じますし、心をつかまれます。

「810sは、なんでMade in Kurumeにしないんだろう?と最初は思いました」

810sは、ALWEATHERとLITE BALLETの後にお取り扱いを始めたんですが、正直迷いもあったんです。なぜかというと、ヴァルカナイズの靴のように久留米でつくってないというところがちょっと自分の中で引っ掛かっていたんですね。でもお話を聞いていくうちに、誰でも普段使いできたり、ガシガシ履いたりできる靴をつくりたいという想いがあった中で、ちょうどいい価格帯にしたかったというお話だったり、ベースモデルの製造を行っている背景のある海外の工場でつくっていたりということを伺って、スッと納得できました。ちゃんとムーンスターらしい理にかなっている部分があるんだって分かったんです。それで810sのPROOのお取り扱いを始めました。はたから見ていたときは、なんでMade in Kurumeにしないんだろうって思っていたんですけど、やっぱりちゃんと背景を知らなきゃダメだなって思いました。

「“ていねいな暮らし”って“嘘のない暮らし”なのかなと思います」

“ていねいな暮らし”ってよく言われると思うんですが、好きなものが一つでもあればいいと思うんですよね、そこに。全部ていねいな暮らしをするのは無理だよって(笑)。全部ていねいにしようと思うと息が詰まってしまうというか、そこに嘘が出てきてしまう気がするんです。自分のお店の中にあるものでも、お客様に全部このお店のもので揃えてほしいとは全然思っていなくて、他のお店でいいと思ったものとか、家にあるものとかと組み合わせて使ってほしいと思っています。大切なのは自分が納得して使っているということ。だからムーンスターの靴もそうなんですが、自分で使ってみて納得したものだけをご紹介したいんです。

「出かけた先にある町中華に⾏くのが好きです」

海外もそうだし日本もそうなんですけど、その街に根付いてるんだろうなっていうお店に行くのが好きで、新しくできたお店を掘りに行くよりも、何でここでずっと長く続けられてるんだろうっていうのに興味があるというか。町中華ってその最たるものな気がしていて。めちゃくちゃ料理がうまいわけではないけど、ずっとそこにある雰囲気も含めてなんかいいなみたいな(笑)。

ALWEATHER、LITE BALLET、PROO。現在maikaでお取り扱いのあるムーンスターの靴は3足しかありません。でも、ただの3足ではないのだと感じました。この3足は、宮原さん自身が使ってみて、その価値を確かめ、責任を持って販売している3足です。お話を伺っていて、宮原さんが大切にされている価値観を象徴するような言葉がありました。それは「嘘がない」という言葉です。まずは取り扱うものに「嘘がない」こと。それを紹介したいと思う気持ちに「嘘がない」こと。そして、ものの先にある暮らしに「嘘がない」こと。ムーンスターがつくる靴、宮原さんの気持ち、靴を履いてくださる方の暮らしの間にある「嘘がない」関係を想像して、とてもありがたく、嬉しく思いました。