つながる
私とムーンスター

大阪府吹田市にあるTRIPは、1993年創業。現会長の松元明久さんが自宅マンションの一室で、一型・ワンサイズのトレーナーから始められた会社。創業30周年を機に息子である陽平さんが社長に就任され、レディースのpritとユニセックスのRINENというオリジナルブランドも引き継がれました。カフェとギャラリーを併設した直営店はものづくりやアートをはじめとする、文化の発信拠点にもなっています。TRIPとムーンスターのご縁は、展示会の会場としてギャラリーをお貸しいただいたところから。今ではSHOES LIKE POTTERY、810sといった幅広いラインナップのお取り扱いだけではなく、カフェのユニフォームとして810s PRACTICAL ET-P003を採用していただいています。明久さん、陽平さんが考える良い服とはどんなものなのか。会社を引き継がれた陽平さんが見出したTRIPのアイデンティティについてなど、ムーンスターのものづくりにもつながるお話をお聞きすることができました。

「RINEN= 理念」(明久さん)

RINENは、TRIPの理念という意味で立ち上げたブランドです。RINENを始めたときは、陽平がまだ10歳くらいだったかな。彼が20歳になったときに、自分にとっては壊かしい服が、彼にとっては新鮮に感じる服になるようにという思いから「シンプルで壊かしい服」をコンセプトにして始めたんです。そして陽平が30歳のときに会社を継いでくれました。自分にとっては会社を継いでくれたことと同じくらい、RINENを継いでくれたことがすごく嬉しかったです。なんか当時の熱い気持ちを思い起こすと、泣きそうになってきました(笑)。

「長く着られる服をつくりたい」(陽平さん)

ぼくは今、「長く着られる服」というコンセプトでRINENに携わっています。長く着られるための要素はいくつかあると思っていて。まずは品質が良いこと。丈夫であること。着心地が良いこと。それと流行を意識せずにベーシックであること。長く着られるためには、流行り廃りがなく、飽きのこないものであるほうが良いと思っています。RINENを継いだときは「シンプルで懐かしい」というコンセプトを表現することが難しいなと感じていたのですが、ぼくにとっては長く着られることが「懐かしい」の解釈なのかなと最近は思っています。

「10年着られる服」(陽平さん)

コロナの影響でやむをえず閉店してしまったんですが、4年前までは東京の恵比寿にも直営店があったんです。それから久しぶりに復活しよう!ということになり、昨年の2024年12月に恵比寿でポップアップストアを開催しました。そうしたら、自分が思っていたよりもRINENを待ってくれていたお客様が多かったんです。昔からRINENの服を愛用してくれているお客様にお会いしたり、中には、 10年くらい前に買っていただいたジャケットを今も大切に着てくださっているお客様もいたりして、とても驚きました。そこで感じたのは、長く着られるということが、RINENらしさなのかなということでした。

「気負わずに着られる服のほうが、結果的に長く着られる」(陽平さん)

もうひとつ、ぼくがRINENらしさだと思っているのは、気負わず着られる服であること。たとえば、あまりにも高価過ぎる服だと手が出しにくいし、着るのにも気を使ってしまうと思うんです。そういう服よりも、気負わずどんどん着られる服のほうが愛着がわくし、結果的に長く着ているものだと思います。この感覚は、ムーンスターさんの製品とつながるところがあるのかもなと思っています。

「製品洗いを30年続けています」(明久さん)

創業して服をつくり始めた当初より、製品を洗ってから販売していました。お客様が購入後に家で洗っても縮まず、同じ風合いを保つことにこだわっていました。その頃は家庭用の洗濯機で洗ってから天日干しをしたり、コインランドリーの乾燥機を利用したりしていました。今では業務用の洗濯機と乾燥機も導入していますが、引き続き家庭用洗濯機で洗ってから天日干しもしています。気が付けば、製品洗いを30年も続けています。

「製品洗いは会社のアイデンティティ」(陽平さん)

洗っていない服と、1回でも洗った服とでは、生地の表情や肌触りが全然違うんです。でも1回洗った服と2回洗った服って、そんなに変わらないと思います。だからこそ、最初の1回目の製品洗いをしてからお客様に届けることが大切なんだと思います。それを30年も続けてきた結果、製品洗いが会社のアイデンティティになっているのだと感じます。おそらく、製品洗いにここまで特化しているアパレルメーカーは他にはないと思います。

「TABI HIKEは、程良いバランス」(明久さん)

昨年の2024年7月に、ムーンスターさんが京都の一保堂さんで開催されていた、IN USEのポップアップショップでTABI HIKEと出会いました。それからずっと履き続けています。とにかく履きやすいし、見た目もがっしりしていてかわいらしくて、RINENの服にも相性が良い。最初は少しソールが薄く感じましたが、履いているうちに足裏で地面を敏感に感じることができて、裸足のような感覚がとても心地良くなりました。また機能性ばかりを優先するとファッション性に欠けてしまい、ファッション性ばかりを優先すると機能性に欠けてしまう。 TABI HIKEは機能性とファッション性が程良いバランスなので、まさしく自分が30年間こだわってきたものづくりに通じるところがあると思っています。それとネーミングが実に良いですね。 地下足袋とハイキングでTABI HIKE。TABI HIKE愛が強すぎるので、是非アンバサダーにしてください(笑)。

「ムーンスターは品質と見た目が良い」(陽平さん)

ぼくは靴の専門家ではないので体感的なところになってくるんですが、靴の品質の良さは履き心地と見た目が良いことかなと思います。ムーンスターさんの靴はクッション性が良くて、ついつい足が伸びてしまいます。見た目の良さの指標は人によって違うと思いますが、個人的には自分たちのつくる服に合わせても違和感がないこと、デザインがシンプルであることがそこにつながります。そういう意味ではムーンスターさんの製品は、見た目がとても良いと思います。 ぼくは最近810s PRACTICALばかり履いているので、結局履き心地と使い勝手の良さが一番なのかもしれませんね。810s PRACTICALはうちのカフェでスタッフにも履いてもらっています。

「シンプルでカジュアル過ぎない靴」(明久さん)

自分は昔から黒色の靴ばかりを履いています。自分にとってシンプルでカジュアル過ぎない靴って意外と少ないんですよね。そういえば、隣で社長がIN USEのバスケットを履いているのを見ていて、実にシンプルで良いですね。自分も次はバスケットを履いてみます。

「シンプルで懐かしい服」。「長く着られる服」。明久さんと陽平さんの言葉の選び方は一緒ではありません。けれど、お二人のものづくりは理念でつながっていると感じました。陽平さんが教えてくれた、10年前に買ったRINENのジャケットを今も愛用されているお客様に出会ったときに、こういうお客様のために「長く着られる」服をつくりたいと思った。という、エピソード。これはお二人のものづくりが、言葉ではなく、自分たちがつくった服がどう着られるのか。その一点を大切にされていることを象徴しています。明久さんがつくったジャケットが、10年着続けられ、陽平さんの前に現れ、「シンプルで懐かしい服」というコンセプトに「長く着られる服」という解釈が加わる。今回の取材を通して、ものが人に使われることで深まる、ものづくりの理念を垣間見ることができました。ムーンスターもそんなものづくりを続けていきます。