つながる
私とムーンスター

「ひっそりと佇む」。MOMOTARO JEANS KYOTOには、そんな言葉が似合います。建築としての存在感はしっかりあるのにそう感じるのは、装飾的な要素が排された、京町家の思想を大切にした店舗だからなのかもしれません。国産デニムの聖地である岡山県・児島からデニムの新しい在り方を提案している企業、ジャパンブルーのブランド・MOMOTARO JEANSがリブランディングを発表したのは2024年。同年、その拠点としてオープンしたMOMOTARO JEANS KYOTO・マネージャーの田中勝也さんは、ムーンスター社員のご友人。日頃から文化やファッションなど、様々なことを語り合う良い関係の中で、その社員から田中さんへ一足のムーンスターをプレゼントしたことをきっかけに、ムーンスターをご愛用いただいています。田中さんとデニムの出会いから、MOMOTARO JEANSの現在地。そして、好きなお酒のことまで。公私を行ったり来たりしながらお話をお聞きしました。

「デニムが育つって、なんて面白いんだ」

ぼくは小中高とずっと野球をやっていたんですが、行きたかった大学に受からなくて。それでどうしようかなって考えてたときに海外に行きたいってなって、お金を貯めてカナダに留学したんです。そのときにセルビッチのジーンズを1本、相棒として持っていったんですね。で、毎日穿いて、毎日穿いて、拙い英語を毎日勉強しながら。そうすると、どんどん育つんですよね。デニムが。これが育つってことか。なんて面白いんだって思って。でも帰国するちょうど1週間くらい前に、お尻がズコって抜けちゃったんですよ(笑)。それでやっぱりいいものというか、高くても長く穿けるものを穿きたいなと思って、日本に帰ってきてから国産のジーンズを探し始めて。成人のお祝いで姉ちゃんに買ってもらったのがMOMOTARO JEANSだったんです。

「いかんせん、道具が好きで」

野球をやっていたときのポジションがキャッチャーだったんです。だから相手チームのバッターのバットからスパイクまで全部覚えたり、ピッチャーのグローブのメーカーをチェックしたり、道具にすごい執着があって。その矛先がデニムに向いたんですね。デニムのことは全然知らなかったんですけど、ジャパンブルーに入社してからヴィンテージのこととかも勉強して、デニムが好きになっていきました。

「ジーンズの正しい穿き方」

正しいというと、ルールがある感じがするかもしれませんが、ぼくが思う正しい穿き方は、一言で言うと“自由”。「ジーンズは絶対洗うな」とか、「アタリが」とか、「ディテールがどうのこうの」っていう話はあるんですけど、そもそもは労働着だし。一般的に着られるようになったのも映画スターの台頭であったりとか、ロックスターが好んで着ていたりとか、反骨精神の象徴のようなところもあるし、ベルリンの壁崩壊のときとかはみんなジーンズ穿いて壁壊しに行ってたりとか、ヒッピーであったり、パンクロックとか、いろんなカルチャーと密接に関わって市民権を得たのがジーンズだと思うんです。それをとやかく言うのがあんまり好きじゃないというか。ストレッチが入っててもいいし、セルビッチがあってもなくても、その人にとって、それがいちばんだったらいい。“自由”がいちばんいいと思っています。

「デニムのメゾン。っていう場所を目指しています」

メゾンっていう形がまだ抽象的ではあるんですが、それをみんなでつくり上げているところです。それがどんな場所なのか、ラグジュアリーなのか、ちょっとキレイめなのか…。デニムのメゾン?と、日々みんなで模索しています。ただ、今までだとリーバイスのヴィンテージからサイズとかパターンとかサンプルを取ってつくるっていうのが王道というか、当たり前のアプローチだったんですが、違うパタンナーさんをお迎えしたりして、より今までと違う、気品があるようなデニムを提案しています。でも新しいだけじゃなくて、生地であったりとか、ヴィンテージのディテールとかも踏襲しつつ、新しいエッセンスを入れるっていうのが今のMOMOTARO JEANSの提案している形になるのかなと。国産ジーンズっていうと、ちょっとアメカジくささもあったりするので、どうしても窓口がニッチになってしまってたところを、アメカジ好きではない方も、「あ、MOMOTAROって穿けるんだ」って思ってもらえているのは、リブランディング後の動きかなと思います。

「ムーンスターとジャパンブルーは似ている」

ムーンスターの経営理念は「すべての人々の『笑顔』と『しあわせ』のために。」だと思うんですが、かなり似ているところがあって。ジャパンブルーと。ジャパンブルーにも「デニムを通して世界中の人々と平和を分かち合う」っていう考え方があるんです。お客様もそうだし、売る側もそうだし、工場とか隅々まで関わってる人と一緒に幸せになりたいっていうような、そういう世界の実現を目指してるんですが、そういうところが似ているなと。あと、スニーカーもデニムも海外から入ってきた文化じゃないですか。製法は一緒だったとしても、日本でブラッシュアップしたり、生活に寄り添って発展していっているっていうところが、スニーカーのムーンスターとデニムのジャパンブルーってすごく似ていると感じています。

「地面からの突き上げ」

正直、機能性に関しては最近のハイテクスニーカーのほうが良いのかもしれません。でも普段、革靴やブーツもよく履くぼくにとってはソールがフカフカ過ぎるのも逆に疲れてしまいます。ムーンスターは適度に地面を感じるクッション性が歩きやすく、疲れにくい。特にヴァルカナイズ製法のスニーカーが個人的にはいちばん疲れにくくて、一歩一歩の地面の踏み心地が心地良い。変な言い回しになりますが、ヴァルカを感じるのが楽しいです(笑)。ローテクスニーカーは変に硬かったり、地面からの衝撃が強すぎたり、足が痛くなったりとか、なんかちょっと安っぽさを感じてしまうような履き心地が多かったんですが、ムーンスターを履くようになってかなり印象が変わりましたね。

「ムーンスターは正捕手」

失礼な表現になってしまうかもしれませんが、ムーンスターって履いていてものすごくテンションが上がる靴かと言われたらそうでもないかもしれません。革靴だったり、もっと何万円もするスニーカーもいっぱいあって、気を遣いながら大切に履く靴もすばらしいと思いますし、大好きです。でもムーンスターは「大切にする」「大事にする」というベクトルの靴とは違う気がしています。「ちょうどいい」。この言葉で表現するのがちょうどいい。だからこそついつい履いてしまう。バチバチのエースピッチャーとかじゃなくて、いつも寄り添ってくれるような、チームに欠かせない正捕手。ぼくにとってのムーンスターは、そういう存在ですね。

「レコードよりCD。ビールより発泡酒(笑)」

「レコードよりCD。ビールより発泡酒(笑)」
今ってサブスクじゃないですか、何でも。ついつい頼っちゃうんですけど、ぼくはCDが好きなんです。CDコンポが(笑)。サブスクって、なんかCDとかアルバムに向き合ってない感じがして。すごい便利で、いろんな音楽も知れるけど、なんか物寂しいなっていうのは感じてて。で、けっこうハイカラというか高感度な人ってたぶんレコードにいっちゃうんですよ。「いや、レコードの音がいいんだよ」みたいな。でも、そこまではなんか違うんだよなっていう。ぼくがちっちゃいときはまだCDだったので、あのウィーンって出す感じだったり、あのCDどこだっけみたいな。あの無意味な時間であったりとか、無意味にその歌詞カードを読むみたいな。別にネットで調べてもいいけど、なんかそういうのって今大事というか。なんかエモーショナルというか。ちゃんとその時間であったり、文化に向き合ってるっていう感じがして好きなんですよね。あと、発泡酒が好きです。たぶん舌バカというか、分かんないんですよねお酒とかも。ウイスキーとかよく分からないんです。ビールは好きだけど、ビールと発泡酒の違いも正直なところあんまり分かってない。でもいちばん気軽に飲めて、なんか程良いっていうと発泡酒で、なんなら発泡酒がいちばんうまいと思ってるんで(笑)。なんかそういう性質あるんじゃないかな。たぶんぼく。缶ビールと発泡酒が同じ値段で売ってても発泡酒買います。CDも発泡酒も「ちょうどいい」んですね。ぼくにとっては。

ジーンズの正しい穿き方は“自由”。“正しさ”と“自由さ”は、一見かけ離れた概念ですが、田中さんの、ものに関する考え方を通すと、それらは一連として聞こえてきます。“正しさ”と“自由さ”をつなぐもの。それは「その人に合った」もの。「なんか程良い」もの。すなわち「ちょうどいい」もの。極めて主観的な物差しではあるけれど、ジーンズにはそれに応える懐の広さがある。田中さんたち、MOMOTARO JEANSはそう信じて、ジーンズの可能性を模索されているのだと感じました。そして、誰もが毎日使う靴というものをつくり続けてきたムーンスターにとっても、「ちょうどいい」靴ってなんだろう?という果てしない問いは、続いていきます。