つながる
私とムーンスター

京都の中心部はよく“碁盤の目”にたとえられますが、どの道、どの路地に入っても古い建物と新しい建物が混在しています。mumokutekiは、そんな京都の中心部、鴨川から歩いても10分もかからないほどの御幸町通りと寺町通りの両通りに面した場所にあります。1階には洋服や雑貨などの幅広いアイテム、地下1階にはアンティーク家具が取り揃えられ、2階にはcafeを併設。着る、使う、食べるといった、暮らしに必要なものが凝縮された、誰もが楽しめるお店です。取材させていただいたバイヤーの山之口ゆかさんは、ほぼ毎日ムーンスターを履いてくださっているほどのムーンスター愛用者。ものが日常の中で果たす役割を中心に、ムーンスターについてもたくさんお話をお聞きしました。

「古着が好きで入社しました」

mumokutekiの運営会社であるヒューマンフォーラムには、“スピンズ”っていう事業部があるんですが、名古屋の大須っていう古着屋さんがたくさんある街に、スピンズの大型古着屋がオープンしたことがきっかけで入社しました。私自身、愛知出身で古着が好きというのもあったんですが、面白そうだなと思って。スピンズでショップスタッフとして働いた後、バイヤーになったんですけど、ちょうど30歳くらいになる頃に、スピンズのメインのお客様である10代20代に対して、自分との世代とか感覚の差みたいなのを感じ始めていました。そんなときに、異動してみてはどうかっていうお声がけがあって、mumokutekiの事業に関わり始めました。

「何もなくても集える場」

mumokutekiっていう名前の由来は諸説あるんですが(笑)、目的がなくてもふらっと立ち寄っていただけたりとか、何かが欲しいとかじゃなくても行ってみたら何かが見つかるかもしれないっていう、目的がなくても集える場という意味だと私は理解しています。

「見た目じゃなくて、使ってみて使い心地がいいもの」

私たちがセレクトしたり、オリジナル商品をつくったりするうえでの基準は、日常の中で使えるアイテムかどうか、ということです。日常で使ってもらうことを前提にしているので、とにかくお客様の声を拾うんですね。何か商品を発売したときに、お客様からこういう声がありましたっていうのをお店から吸い上げて、それを次の商品に活かすことは気を付けてやっています。実際に使っていただいたお客様の「もうちょっとここがこうだったらいいよね」とか、「こういうふうに使えたらいいのにな」っていう声を、商品を選ぶときも、自分たちで新しく生産するときも強く意識していますね。今すごく反応がいいリュックがあるんですが、ポケットがたくさん付いていて、収納がすごい充実していて、しかも軽いっていうところが推しの商品で。そのリュックがいい例なんですが、お客様が気にされていることって、「いくら見た目が良くても軽くないとダメよね」とか、やっぱり使い勝手の部分が大きいんだなって思っています。mumokutekiのお客様は20代から70代くらいまでと幅広いのですが、30代と40代がメインなので、なおさらかもしれません。

「“生きること”って、何も考えなくてもできてしまうことだけれど…」

mumokutekiのコンセプトは“いきるをつくる”なんですが、生きるってなんて言うんだろう…、生きてたら当たり前じゃないですか。特別な境遇を除いて、生きることって普段何も考えなくてもできてしまうことだと思うんです。でも、その当たり前をより良く、豊かなものとしてつくっていくというか。一度立ち止まって振り返ってみて、自分が食べるものであったり、身に付けるものであったり、使うものであったり、全部含めて生きるっていうことを考えてつくっていく。商品を通してお客様が考えるきっかけをつくったり、“生きること”そのものをどうつくっていけるか。雑貨も洋服もカフェもアンティーク家具も、各担当のお店でよく考えながら仕事をしています。

「用意周到」

私、用意周到が好きなんです。すべてにおいて(笑)。仕事もですし、遊びでも用意周到が大事だなって自分の中では思っています。準備というか、何かがあったときに対応できる用意というか。たとえば私、傘は常に持ってるんです。そして、晴雨兼用で、晴れの日でも雨の日でも、どっちでも使えるものじゃないと嫌なんですね。どっちの日にも対応できて、なおかつ軽くて、カバンに入ってても気にならない傘。天気予報は晴れだったのに急に雨が降ってきたときでも、サッと出せるのがいい(笑)。用意周到だったからこそ、不快感を感じなかったな。みたいなことが、自分的に好きなんですね。個人的なことだから、感情の説明の仕方が難しいんですが…。

「ムーンスターの靴は“対応”してくれます」

靴って出かけるときに最重要じゃないですか。足が不快だったり、痛かったり、疲れたりすると、その日のテンションにも、その日のスケジュールにも影響してくるというか。ムーンスターの靴は、とにかく対応してくれます。ゴムの部分の丈夫さを感じますし、あと、滑らない。810sのSNOWFとかはもちろんなんですが、雨の日でも雪の日でも大丈夫とか、その場面場面に合わせた安心感がありますね。対応できるうえに、自分のスタイリングに合うものが多いなっていう、私にとって、用意周到な靴ですね(笑)。

「履き心地はスニーカー。見た目はスニーカーじゃない。いつ履いても嫌じゃない」

天候に対応できる靴なら他にもあると思うんですけど、いつ履いても嫌じゃない履き心地がすごい大事。ALWEATHERも機能でいうと長靴なんだけど、履き心地が違うんですよね。長靴を履いて出かけるのと、長靴の機能を兼ね備えたALWEATHERを履いて出かけるのとでは、過ごしやすさが全然違う。それと、ムーンスターの靴は、履き心地はスニーカーなんだけど、見た目はスニーカーじゃないみたいな感じです(笑)。バレエシューズみたいなのに、履き心地はスニーカーみたいな感覚とか。私は紐が付いている普通のスニーカーが苦手であんまり履かないんですけど、普通のバレエシューズではやっぱり足が痛くなってしまうんです、ペタンコなので。でもムーンスターのバレエシューズみたいなスニーカーだったら、履き心地がスニーカーなので嫌じゃないというか。

「特に気に入っているのは810s CAF、LITE BALLET、ALW SIDEGOA、810s SNOWFです」

今いちばん愛用しているのは810s CAF。サボタイプですが歩いてもパカパカせず、足に適度にフィットするので履きやすいです。つま先が丸く圧迫感もないので、1日中立ちっぱなしで足が浮腫んでしまったときでも痛くならないですし、スッキリとしたシンプルなデザインなので、パンツとスカートどちらでも合わせやすく、スリッパ感覚でも履けるので、庭先やちょっとそこまでの外出でも使いやすく、ほぼ毎日履いています。LITE BALLETは、デザインが自分にとってちょうど良くて気に入っています。足元をスッキリ見せたいスタイルのときに活躍していますね。ALW SIDEGOAは、雨の日に長靴を履きたくなくて、でも濡れるのは嫌という私にぴったりでした。雨の日でも履けるスニーカーとして重宝しています。サイドゴアなので着脱もしやすく、ブーツタイプですが履いている感覚はスニーカーなので歩きやすいです。オールブラックのデザインも気に入っています。810s SNOWFは雪の日や、冬の寒い日に履いています。凍った地面でも滑らず、安心して歩けます。コンパクトなブーツなので、雪の日でなくても冬の長時間の外出などで足元を冷やしたくないときにも履いていますね。

「ムーンスターの柔軟性」

ムーンスターのすごいところは、やっぱり150年続いていることだと思うんです。それだけ生き残ることができている企業って何がすごいのかなって考えてみると、続ける忍耐力とか体力っていうところもあると思うんですが、柔軟性なんじゃないかと思っていて。足袋から始まって、いろんな靴をつくり続けてきたからこそ今の靴がある。でもその根底には、時代時代の日常の中で履く人のことを真剣に考えてものづくりを続けてきた歴史がある。それを想像すると、すごいなぁと思います。これから時代もどんどん変わって、人の暮らし方も変わっていくと思うんですね。そうなったときに靴の在り方がどう変わっていって、どう変えていくのか。ムーンスターの柔軟性があれば、できることがたくさんあるんじゃないかなぁと思っています。

山之口さんが大事にされている“用意周到”という概念と、山之口さんの日常の一部になっているムーンスターの靴。その結び付きがとても興味深く感じました。そして、お話の中で“用意周到”の他によく登場したのが“対応”という言葉。“対応”という言葉は、どちらかといえば受け身な言葉。もしかすると100%ポジティブに捉えられる言葉ではないかもしれません。けれど、実は“もの”としてのムーンスターの靴の良さを的確に表している言葉だと思いました。日常の様々な場面で、天候に左右されず、不快ではなく、安心感があって、いろんなスタイリングに合う靴。まとめると、いつ履いても嫌じゃない靴。それは、私たちがものづくりで意識している“使われてこそ価値のある”靴そのものなのではないか。そう思ったのです。今回、山之口さんにとってのムーンスターの靴の価値をお聞きして、あらためて感じたこと。それは、自分たちのものづくりの価値とはどういうものなのかを問い続けるプロセスには、つくり手と使い手、そしてその間にいらっしゃる売り手の存在が不可欠であるということでした。