つながる
私とムーンスター

東京・代官山にほど近い場所にある、ファッションに特化したPR会社「4K[sik]」。2013年頃からムーンスターのライフスタイル領域のPRをご担当いただいています。近年のムーンスターブランドを、いちばん近くで見られてきた方の一人であるPRマネージャーの佐藤さんに、ご自身のスニーカー遍歴からムーンスターブランドの現在地まで、たっぷりとお話しいただきました。

「アメカジ屋の店員からPRの世界へ」

元々はアメカジ屋だったり、その後はいわゆる裏原宿系のストリートブランドのお店で販売や企画をやったりしていました。その後、先輩に誘ってもらって4Kで ファッションブランドのPRの仕事を始めました。ファッションに興味を持ったのは、子どもの頃やっていたスポーツに関わるブランドからだったと思います。スポーツのアイテムとしてスニーカーは欠かせないものだから、自然とスニーカー好きになっていきましたね。

「初めてのスニーカーは、K・SWISS。高校時代はジョーダン」

東京で生まれて、小学校くらいから岩手の田舎で育ったんですが、最初に自分の意思で選んだのは、岩手のスポーツ用品店みたいなところで買ったK・SWISSの白いスニーカーでした。中学の校則で靴は真っ白じゃなきゃいけなかったんですが、白だけど人とはちょっと違うものが欲しくて選んだ記憶があります。高校ではバスケをやっていたので、ジョーダンシリーズが好きでしたね。当時はジョーダンVがいちばんかっこいいよねとか、VII履いてるやつはダサいよねとか、友だちの兄貴がIVを持ってるらしいぞとか、そんな話をしていました(笑)。

「スニーカーは、なんだかんだ定番に行き着いてしまいます」

裏原宿が真っ盛りの頃はハイテクスニーカーブームがやってきて、ナイキのテラフマラだったりとかも履いていたし、その頃は別注モデルとか、海外に買い付けに行っているセレクトショップの人とかと仲良くなって、いち早く情報を仕入れたり、とにかく珍しいやつを買ってきてもらったりしていましたね(笑)。でも結局ぼくの中のベースにあるのはナイキのコルテッツだったり、プーマのクライドやスエード、アディダスのスタンスミスのような定番。進化版を試してはみるものの、やっぱり定番がしっくりきてしまいます。

「ローテクスニーカーは、履き心地を求めるものではなかった」

ムーンスターを履き込んでみるまでは、正直ローテクスニーカーの履き心地に疑問を持つことはありませんでした。カルチャーだったりスタイルだったりを求めるものだから、多少足が痛くなったりしても、そういうもんだと言い聞かせていたというか…(笑)。ローテクスニーカーはルックス上、履き心地に関してやれることはないんじゃないかと思っていましたし、改善できることとしても自分で中敷きを入れて調整するくらいしかなかったと思うんです。ムーンスターの仕事を始めて、久留米工場に行ってすべての工程を見せていただいて、クラシックなスニーカーでもこういうつくり方だと履き心地の違いが生まれるんだって驚きました。そのときに、これならPRとして勝負できるって思ったのを覚えています。

「モノに理由があれば、必ず人に響いていく」

モノに理由があるかどうか。プロダクトもそうですし、つくっている人たちの想いというか、きちんとした背景やカルチャーがあるかどうか。それさえあれば、たとえ無名であったとしても、どういう人やメディアに紹介して巻き込んでいくかが考えられると思っています。理由がないブランドは、どんなにPRを頑張ってもうまくいかないことが多いですし、結果としてブランド自体が自然となくなってしまったりもします。

「ムーンスターは、履いている人が『自分の中で』優位性を持てる靴」

見た目はシンプルだけど、いろんな理由があって、履き心地も違う靴。でも、履いている人がそれを変に主張するというよりは、自分の中で優位性を持てる靴なんだろうなと思います。同じように見えるかもしれないけど、俺のは違うんだぜっていう。ムーンスターが好きな人ってそんな気持ちを共有しているんじゃないかと思うし、一度履いたら戻れなくなる。他のブランドにも目はいくけど、久々に他を履いてみると、やっぱ足痛ぇなぁ…(笑)やっぱムーンスターのほうがいいなみたいな。

「ムーンスターを知らない人は、もういません」

ここ数年間の積み上げの中で「ムーンスターの靴なら、モノは絶対にいい」という安心感ができたと思っています。今では編集者やスタイリストやファッションメディア関係者で知らない人はいなくなりました。だから新しいラインである810sが出てきたときも、低価格帯の設定だけど、安かろう悪かろうといううがった見方は最初からなくて、ムーンスターだからこそこの価格でできるんだよねという納得感がありました。
ヴァルカナイズ製法のラインとはつくり方も価格も違うけど、つくりのベースは変わっていないし、「ムーンスターのものづくりの価値をあらためてみんなに知ってもらいたい、次の世代に提案していきたい」というブランドの意思を810sで伝えられていると感じます。

「日本のものづくりを、奇をてらわずに守っていってほしい」

今は海外、特に中国などのものづくりのレベルが上がっていて、Made in Japanが必ずしもいちばんじゃなくなってきています。日本では技術がある工場が潰れてしまうような状況が各地で生まれていて、その工場を誰かが買ってそこでものづくりをつづけていく動きもあるけれど、どうしても縮小気味になりつつあります。今やぼくらの業界ではMade in Japanの靴ブランドといえば、ムーンスターってみんな言うんじゃないかと思います。だからムーンスターには、変わらないものづくりをつづけてほしい。そのうえで、久留米でのものづくりのベースを守りながら、ムーンスターらしい新しい靴を生み出してもらえたらなと思います。

佐藤さんのお話の中で印象深かったのは、ムーンスターを「自分の中で優位性が持てる靴」と表現されていたことでした。「自分の中で」という言葉には、ムーンスターが大切にしてきた、モノの価値は使う人が決めるという考え方が内包されているように思います。誰かに誇るためのモノではなく、使っていて心地良いモノ。所有するだけで満足するのではなく、使うほどに良さを実感できるモノ。ムーンスターブランドの本質を、あらためて考えさせられる取材となりました。