つながる
私とムーンスター

東京・豊洲にあるキッザニア東京は、子どもたちが実在する企業の仕事を体験し、楽しみながら社会のしくみを学ぶことができる“こどもが主役の街”。ムーンスターは2018年から“くつ工場”パビリオンを出展しています。子どもたちは靴の構造を学んだ後、くつデザイナーとしてタブレットを使ってパーツごとに色や模様を付け、靴のデザインを開発。プレゼンテーションを行います。デザインした靴はペーパークラフトとして持ち帰った後に、立体的につくり上げることができます。今回お話を伺ったのは、パビリオンの企画段階から一緒に取り組んでいただいている小野田はつみさん。子どもの頃から子どもが大好きだった小野田さんならではの、子どもづくしのお話になりました。

「小学生の頃から、幼稚園の先生になることが夢でした」

私は元々子どもが大好きで、ずっと幼稚園の先生になりたいと思っていたんですが、近所の幼稚園や保育園で働くよりも、ちょっと変わったカリキュラムがあるところで働いてみたいなと漠然と思っていました。それで学生時代にアルバイトをしていた幼稚園の園長先生がつくった香港の日本人幼稚園に新卒で就職したんです。小さい頃、近所の子どもと遊んだり、いとこと遊んだり、けっこう年下の子どもたちをまとめたり、「集まれー!」と先頭に立って遊んでいたのを、周りの大人たちが「面倒見がいいね」と褒めてくれたのを真に受けて、「幼稚園の先生っていいかも!」と思ったのが夢を持つようになったきっかけだったのかもしれません。

「子どもの施設なのに、何ここ!?」

キッザニアとの出会いは運命的だったんです。香港から日本に一時帰国したときに搭乗したANAさんの『翼の王国』という機内誌をパラパラと見ていたら、キッザニアが東京にできるという記事が載っていたんです。本物の飛行機が置かれた今のキッザニア東京のエントランスのイメージパースみたいなものが出ていて、子どもの施設なのにすごい本格的で、何ここ!?って思って。その飛行機を降りてすぐ調べて、もうすぐにでも働きたいと思いました。

「楽しみながら、学ぶことができる体験」

キッザニアは “楽しみながら学ぶことができるエデュテインメント施設”がコンセプトなのですが、実は幼稚園もキッザニアも基本的な教育方法は似ていると思っています。あまり気付かれないかもしれないですが、幼稚園の先生たちって実は子どもの成長段階に合った工作や劇や遊び方などのカリキュラムを何カ月もかけて組んでいて、たとえば工作用ののりの硬さまで考えて、子どもたちが自然に何かをできるようになっていく、成長していく環境をつくるのが仕事なんです。キッザニアも似ていて、子どもたちは○○屋さんごっこみたいに楽しんでいるように見えるんですが、実はその中には子どもが成長できるポイントがいっぱい散りばめられているというか、仕掛けられていて、体験し終わったら自然と何かが得られるようになっている。そういう過程がすごく似ているんです。だから私も違和感なくキッザニアで働きたいな、ここなら幼稚園の経験が活かせるなって思えたんだと思います。

「大人は黙っててください(笑)」

子どもたちにとってキッザニアがお家と圧倒的に違うのは、他人と接さないと楽しく過ごせないというところです。ちょっと変な言い方になってしまいますが、大人は黙っててください(笑)みたいな施設なんです。キッザニアでは体験するパビリオンの予約を施設内でやってもらうんですが、子どもが自分でパビリオンにいる大人のスタッフに声をかけないといけないしくみになっていて、大人は関与できないんです。だから、はじめましての人とたくさん会話をしながら一日を過ごさざるを得ない。でもそういう体験を通して、自己肯定力が高まったり、自信がついたりするんですね。大抵の子どもたちは、他人と接する機会があるとしても、習い事の先生や学校の先生くらいで、家族などの知っている大人たちに守られて生きてると思うんです。子どもたちが自信を付けるには、何かを体験して、成長を感じることで得る自己肯定が重要なんだと思います。自己肯定ができたときの子どもの笑顔って、はしゃいだ笑顔というよりはニヤリのほう(笑)。なんか自信付いたなフフッていう顔と、それを見ている親御さんの笑顔を見ると、こっちまでニヤニヤしてしまいます(笑)。

「好きだと思っていたのに、意外と向いていなかった。楽しいと思えなかった。そういう経験もすごく大事」

日本には、いっぱい勉強していい高校に入って、いい大学に入って、いい企業に就職したら成功みたいな風潮がある中で、そうじゃないよねっていう、固定観念を変えていきたいというか。キッザニアで、たとえ1回の経験でもいいので漠然と憧れている職業の仕事をやってみて、単純に楽しいと思えればもっと興味が湧くし、反対に好きだと思ったけど意外と向いていなかったとか楽しいと思えなかったとか、そういう経験もすごく大事だし、知らない人とのコミュニケーションも含めて、社会の縮図が見えるキッザニアで学べることってたくさんあると思っています。親御さんの中には、子どもの頃にキッザニアがあったら良かったのにって仰ってくださる方も多いんです。もしキッザニアがあったら、自分の夢が変わっていたかもしれない。子どもの頃に得意なこととか人よりも優れていることとか、そういうことを知る機会があったら、もっと好きな仕事に就けて伸び伸びと働けたんじゃないかなって。そういう声にお応えして、大人のキッザニアっていう企画もやったことがあります(笑)。

「ムーンスターのくつ工場」

「くつ工場」パビリオンの学びの部分は、ものづくりの工程やこだわりを知ることだと思います。「くつ工場」はクリエイティブな感じなので、デザインは学びというよりも、本当にひたすら楽しいイマジネーションというか、ニコニコしながら夢中になって色付けしたり。あと、自分でデザインした靴の台紙を持ち帰って、家で切って組み立てて飾ったりできるので、何足もデザインして家で並べているリピーターさんも多いです。実際に紙でできた靴を家で履いている子をインスタなどで見ると、靴を自由にデザインするって、子どもたちにとってとても楽しいことなんだなと伝わってきます。

「おばあちゃんとお揃いで履きたい」

どんな柄を組み合わせてデザインするかっていうのには正解はないと思うし、大人が考えないような奇抜な色の組み合わせをするお子さんはたくさんいて、子どもってすごいなぁと単純に思います。でもそれよりも驚くのは、自分のデザインについて発表するときなんです。子どもって思ったよりも大人で、語彙力もあるんだなって。私が苦手だから余計に思うんですけど、イメージを言葉にして伝える能力ってやっぱり大事だなと思っていて、そこをちゃんと言葉で伝えられる子どもって、伸ばしてあげたらすごい大人になるんだろうなって。他のパビリオンでも、なぜこの作品をつくったかという振り返りをするところもありますが、くつ工場の場合は、どんなテーマでこのデザインにしたのかっていうことをみんなにちゃんとプレゼンしないといけないんです。子どもたちは本当にいろんなことを考えていて、テーマ以外にも、おばあちゃんとお揃いで履きたいと思っているので、あえて地味めの色にしてみましたというお子さんもいたりとか(笑)。みんなとてもクリエイティブですね。

「手づくり感とか温もり」

ムーンスターさんの工場見学に行っていちばん驚いたのは、とにかく手づくりの工程が多いことでした。あの職人さんがいなかったらこの靴はできないんだなって。しかもその一人の職人さんが育つまでってすごく時間がかかるんだろうなと。きっとどのメーカーさんにもこだわりはあると思うんですが、あそこまでの手づくり感は他にはないんじゃないかと思いました。手づくりだから感じられる温もりって、子どもにとってとても大事だと思うんです。子どもの靴って汚れるし、子どもはすぐに大きくなるからという理由で安い靴がいっぱい売られていたり、需要もあると思うんですが、いい靴をちゃんと履かせている親御さんもいるんですよね。その親御さんの気持ちが分かるというか。自分も小さい頃は好きな靴が履けなくなるとすごく悲しくなったのを覚えています。お気に入りの靴、忘れられない靴ってやっぱりありますよね。手づくりの靴なら、なおさらだと思います。

「走れるパンプス」

ムーンスターさんの靴は耐久性が良くて、フォーマルでもカジュアルでもいろんなスタイルに合う靴があるので、仕事でもプライベートでも履いています。私は普段は有楽町のオフィスで仕事をしているんですが、豊洲に来ることも毎日のようにあって、お客様をご案内したりするのでけっこう歩いたりするんですね。館内は石畳なので足がすごく疲れるんです……。ソールがペタンコすぎても疲れるし、フォーマルな会とかもあるのでヒールの靴を履いていかなきゃいけない日もあるんですけど、SUGATAはちゃんとして見えるのに全然疲れないんです。一日外でブラブラ買い物するような日も全然疲れない。だからSUGATAは“走れるパンプス”という代名詞がぴったりだと思います(笑)。あと私の持っている810sはサボみたいな感じですごく履きやすくて、コロナであまり遠出しない期間が続く中でちょっと出掛けるときとか、自転車でちょっと買い物とか、近所で用事を済ませるときとかにちょうどいいですね。ヴァルカナイズは、そんなに大事に履いていないのに長持ちしてくれるなぁといつも思っています。

「生きる力」

子どもの成長ってどういうことかというと、自分の得意不得意を知って、好きな分野の能力が伸びることかなと思います。あと、とにかくいろんな人と接して視野を広げていくことが成長につながるんだと思います。そういった成長の過程も含めて、キッザニアでは、子どもたちに「生きる力を育む」ということを念頭に置いているのですが、生きる力って本当に大事だなと思っていて、世界中どこの場所に行っても、どんな悪い環境の場所に行っても生きていける力って大事ですよね。そして人はやっぱり一人では生きていけなくて、みんなと協力し合って生きていくものだと思うので、キッザニアに来る子どもたちには、仕事体験を通していろんな人が関わることで成り立っている社会の縮図も学んで、生きる力を身に付けていってもらえたらなと思っています。

ムーンスターは学校用の上履きをはじめとする、たくさんの子ども靴をつくっています。多くの人が子どもの頃に一度は履いたことのある靴をつくるブランドであることは誇りであると同時に、子どもの足の成長に関わる責任を伴うことでもあります。今回の取材を通して、キッザニア東京では、足の成長だけではなく、心の成長にも携わらせていただいていることを嬉しく思いました。小野田さんのお話に通底していたことは、「教える」ではなく「促す」を大切にしているということ。子どもを子どもとして扱うのではなく、一人の人間として認め、向き合うこと。そうすることが、子ども自身の成長につながるという考え方でした。けれどそんな成長を促すためには、子どもたちに見えないところで大人が一生懸命考え、アイデアを出し、チャレンジしなければならない。それは子ども靴づくりにも言えることかもしれません。子どもたちの足に渡り、歩いたり走ったりボールを蹴ったり、元気に使われることをあれこれ想像しながら靴をつくる。それがいかに幸せな仕事であるのかを、あらためて教えられた気がしました。